2019/08/04

文系大学院のすゝめ

以前,学部生向けに大学院を紹介するイベントがあり,あろうことか大学側が私をスピーカーに選んでしまった.うちの大学院の人材不足もなかなか深刻なようである.

学内向けではあったが一応真面目に発表資料を作り発表をしたわけだが,学内向け故にその内容を伝えられるのはせいぜい数十人.せっかく資料まで作ったので,少しアレンジしてブログに投下してみよう,と思い立った.

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「文系」ってなんだ?

大学院生活総論に入る前に,記事タイトルで言うところの「文系大学院」についての整理をしておく必要がある.もっというと,文系ってなんだ?ということ.

巷では受験区分を引きずって理系,文系という区分けがよくなされているわけだが,学問の区分としては正しい区分であるとは思えない.

所謂「文系」とされる中にも色々な学問があって,大きく分けると「社会科学」と「人文科学」に区分可能であると個人的には思っている.

これは研究の対象が何であるかによる区分であり,……みたいな話を最初書き出したのだが,長くなるのでここではやめる.

つまり何がいいたいかと言うと文系って言っても色々あるぞということと,この記事は社会科学系大学院生視点の話だぞという宣言をしたかっただけだ.人文か社会科学かっていう違いは特に就活の話のところで効いてくるかと思う.

社会科学系院生の大学院生活 ─講義・ゼミ─

大学院での講義

「大学院の講義」と聞いて一般的にどんな想像がなされるんだろうか.既に学部生の頃の記憶が薄れつつある(早い)ので定かか怪しいが,確か最初大学院に興味を持った時その中で講義の比重が高いものと思っていた.

学部の頃よりもレベルの高い専門的な内容で,いろんな知識が身につくんじゃなかろうか,と思っていたような気がする.

結論から言うと大学院の講義はクソである.

確かに学部の頃よりは専門的な内容になったかもしれない.スタイルも輪読や論文を読んで発表とか,ゼミっぽい感じになった.

ただ,一口に○○専攻と言ってもその中でも分野の幅はあるし,修了のため要求される単位数の関係で自分の研究・専門分野と全く関係しないような分野の講義を取ることを余儀なくされる.それは他の学生も同じなので,いくらスタイルがゼミっぽくなっても何となく噛み合わないというか,上辺だけで滑っているような感が強くあった.

あと,これはうちの大学院特有かもしれないが,留学生比率が高いために日本語能力の問題で議論が深まらないと感じるシーンが多かった.彼らが一生懸命日本語を勉強して,一生懸命発表しているのは分かっている.それを貶すつもりはないのだが,この講義スタイルは留学生比率の高さにフィットしてねえなあと思わざるを得なかった.

大学院でのゼミ・研究

従って大学院生活の中心に据えるべきは講義ではなくゼミであり,そして研究なのは間違いない.講義なんてのは適当に単位をとっておけばいい.

ゼミは完全に指導教授ごとにスタイルは違うだろうし,詳しいことは自分のゼミの教授に聞くしかないと思う.ただ,うちのゼミに関して言えば大学院のゼミのほうが「お前は何の研究をしたいんだ」という根源的な問いを突きつけられる機会は多くなったように思う.当たり前だけどね.

これもまたゼミによるけど,学部のゼミの序盤でやるような基礎を固めた上で研究を進めるわけだし,そして人数も学部のときより減ることが多いと思うのでより本腰を入れて,時間を割いて研究をできる環境にはなるかな,と思う.

結局,大学院進学の魅力の一番はそこにあって,学部のゼミで研究に少しでも興味を持ったなら,進学っていう選択肢もあるよというのが学部生に最も伝えたいことなのだ.

逆に,卒論が面倒くさくて仕方なかったとかそういうタイプの人間は大学院に来ると苦しむだけだから来ないほうが良いし,周りの迷惑なので来ないでほしい.間違っても就活がうまく行かなかったから来るところではないわ,ほんと.

大学院に行って良かったと思うこと

一番言いたいことはお伝えしたところだが,「卒論意外と楽しいし,大学院もアリかな……?」なんて思ってる奇特な人の背中を押すために「大学院に行って良かったと思うこと」をつらつらと語ってみる.

学部生の頃,なんか教授のPC操作して手伝ってるよくわからん奴がおるなあ,ってことがあっただろう.あれは実は大学院生だ.

TA(ティーチング・アシスタント)といって,一応アルバイトのようなものなので,あんなミジンコみたいな仕事でもそこらのバイトの時給より高い給料がもらえたりする.まあ,ぼくの場合PC使う系の授業のTAをやってPCのトラブル対応に奔走したりしたわけですが……

後は前述の通り日本人学生が少ないという特性上,事務にせよ教授陣にせよ何かあると「@retoreにやらせとけばいいか」ということで何かと仕事が降ってくることはあった.終いには事務にまで名前を覚えられている.

一番多かったのは留学生絡みの案件で,提携している海外の大学院からの研修生のフィールドトリップに着いていったりしたこともあった.

その他にも,外部から講師を招いて行う特別講義の手伝いをして,その後その講師と教授と自分で何故か飲みにいくことになったり(酔っ払って内容を覚えていないという痛恨のミス)したこともある.なかなかできない経験だったと思う.

社会科学系大学院生の就活事情

実はこのセクションは前節「大学院に入ってよかったこと」に入れるべきなのだが,どうせお前らの悩みどころは「文系で修士だと就職できないんでしょ……?」というところだと思うのでこうしてわざわざ目立つように独立した説にして差し上げてるので感謝していただきたい.

……という上から目線は冗談だが,実際大学院に進学するかしないかで悩んでいる人の悩みどころの一つに「文系修士,就職できない説」があるのは事実だし,自分自身学部生の頃はそこで悩んでいた節もないわけではない.

ただ,自分の場合そもそも高校時代には理系だったわけで,就職を意識するなら順当に自然科学系の学部に進めば良かったという話で(実際薬学部に興味を持った時期もあった).その就活的なアドバンテージを蹴り飛ばして社会科学系に来た今になって就活どうこうでウジウジしても意味ないだろ,ということで空前の売り手市場と言われた17卒の新卒カードを破り捨てて大学院に進学した.

しかし皆が皆,そんな向こう見ずなことをできるわけではないだろう.だから自分自身の就活を振り返って,就活もしっかり意識して進路選びをしている真っ当な人の背中を押したいと思う.

前提

まず大前提として言っておかなければならないのは,空前の売り手市場の17卒カードを破り捨てて手に入れた19卒カードは,実は17卒カード以上の売り手市場だったということである.そういう意味ではタイミングに恵まれたというのは確かに否めないところではある.

そしてここで冒頭の「社会科学」と「人文科学」の分類が効いてきて,私の属していた社会科学系は人文科学系に比べて就活はやりやすい傾向にある.社会科学系だと例えば経済とか,割と社会人として働くで直接役に立たないこともない分野になる.一方で人文科学系は例えば哲学とか,文学とか,教養として非常に重要だとは思う一方で,企業からはウケが悪いことが多い.

なのでまず売り手市場という下駄を履いた上での,そして所謂「文系」ではあるが社会科学系の場合,という限定のもとでのお話ということでご理解いただければと思う.

社会科学系院生は「研究の話をしていれば足りる」

就活一般論として,学生が最も考えるのが難しいのが所謂「ガクチカ」,つまり「学生時代に力を入れたこと」である.

社会科学系の学部生はどいつもこいつも「サークルでリーダーをやっておりましてー」「バイトリーダーガー」と連呼する機械になってしまう.これはグループ面接で実際に遭遇したから本当である.4人のグループ面接で自分以外の3人がサークルでリーダーを務めていたときの衝撃よ

しかし院生の「ガクチカ」は当然に「研究」になってしかるべきだろう.院生が来て学生時代に一番力を入れたことが「サークルです!」だったら「君なにしに大学院に行ったの?」となるのは間違いない.だからそこで悩む必要はない.「ガクチカ」は「研究」,それで良い.

学部生はどいつもこいつも嘘っぱちのサークル話を展開しボロを出して苦しんでいるところ,我々は研究の話をすればいいだけなのだ.そして,我々は散々ゼミやそれ以外の場所で自分の研究について説明する機会があったはずだから,慣れた話をすれば良いだけ.なんて楽なんだ.

ここで社会科学系の強みが出てくる.研究対象が社会に関することだから,研究の説明をすると興味を持って聞いてもらえることが多い.例えば人文系の学生が「カントの研究をしています.純粋理性批判が〜」と語ったところで大多数は理解できない.一方社会科学系だと例えば「○○のマーケティングについて研究しています」みたいな話になるので,より身近な話題になりやすい.両者の間に純粋に研究としての優劣があるとは思わないが,就活のネタとして使うという観点からいえば明らかに社会科学系が有利である.

院生は「詰められ慣れて」コミュ力を鍛えられている

我々はゼミナールにおいて教授に詰められ慣れている.軽く「○○だと思います」と言ったら矛盾の指摘がマシンガンのように飛んできて冷や汗を流すこともあるだろう.

だから,面接で多少詰められたところで屁でもない.「なんで○○とは考えなかったの?」みたいな鋭い質問が飛んでくることもあるだろうけど,ゼミのノリでその場で考えて答えれば良い.多分学部生の頃ならアワアワしてたと思うが,大学院のゼミで鍛えられた今となってはまったくもって無問題.

思うに,就活で重要と言われる「コミュ力」は誤解されているフシがある.学生は割と「誰とでも和気藹々と話せる」みたいな方向性でコミュ力を考えているやつが多いが,「鋭い質問にどれだけ的確に迅速に答えられるか」というのが多分就活において重要とされる「コミュ力」なんだろう.

コミュ力とは要は思考力だ.そういう意味では,大学院のゼミは「コミュ力の鍛錬」に寄与しているところもあると思う.

院生には他に話すネタもある

前節「大学院に入ってよかったと思うこと」でも述べたが,学部生の頃にはないような仕事が降ってくるシーンもたくさんある.海外の大学からの訪問客を案内したりとか,留学生対応をしたりとか.

そういった話も織り交ぜながら話していけば,多分面接で話す内容には困らないんじゃないかな,と思う.

多分,学部卒で就活したらもっと苦労していた

……と,本当に思う.

学部時点では就活で自身を持って言えるほどに研究をしていたかというとそうではないし,サークルも2年で幽霊メンバーになり,バイトもやってはいるが別にリーダーをやっているわけでもなく.

「コミュ力」も今ほどなかったし,適当なガクチカをぶち上げてボロを出し,突っ込まれてアワアワしてたんじゃないかと思う.

そういう意味では「社会科学系院生だと就職できない」というご指摘はまったく当たらないし,私自身に関して言えばむしろ就職活動の難易度は下がったんじゃないかと思っている.

文系大学院のすゝめ

「文系大学院のすゝめ」というタイトルだが,万人に向いた環境だとは思わない.前述の通り,卒論が嫌いだったタイプは絶対進学してはいけない.

ただ,もしも研究に少しでも興味があるのなら行ってみる価値がある,それが大学院かな,と.

もちろん,金銭的な制約や就活への不安などもあるだろう.金銭的な制約についてはそれぞれの事情があるので何とも言えないが,少なくとも就活については言われているほどの問題はないんじゃなかろうか,というのが自分の感想である(繰り返しになるが人文系の実情は知らない).

何より,大学院の2年間で得た経験は,直接的でなくとも今後働く上で役に立つ面は必ずあると実感している.

もし少しでも興味があるのなら,思い切って大学院に行ってみたらいかが?ということです.

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