某広告代理店の社員の自殺が契機となって,労働問題が割と表に出てくるようになったと感じる今日この頃.そのビッグウェーブに乗じてアルバイト先の労基法違反を是正させてみたので,そのお話を.
一応大手企業でバイトしている人向けの内容になっている.何故中小企業には当てはまらないのかは後述.
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違反内容とこれまでの私の考え
違反内容はまあ,ありがちだけど制服に着替えてからの移動時間が労働時間に含まれないというやつ.
あまりにも有名な話なので,これが労基法に抵触することは(厳密には関連する判例に,と言うべきなのかな)以前から知っていたのだが,それを是正させるというのは案外難しいなと感じていた.
素人でもパッと思いつく方法は例えば……
助けて!労働基準監督署
労基署ってこれくらいじゃ動かないでしょ,多分.
物事には優先順序があり,そして労基署のリソースも無限ではない,というか多分足りてない.そうなってくると,解雇とかに絡むような問題であったり,命にかかわるような労働時間の問題であったり,そういう問題が優先されるのは当然.
仮に私が通報したとして,せいぜい学生の小遣いがシフト1回ごとに数百円動くレベルの話でしかなく(もちろん企業全体で積算すれば結構大きい額になるかもしれないけど),優先順位はどう考えても低い.
それがいいことだとは思わないが,ブラック企業ばかりのこんな世の中じゃ労基署もそこまで手が回らないのが実情だと思う.ポイズン.
じゃあ,現場の管理者に言ってみるか!
くっそ!労基署がやられた!だが奴は四天王の中でも最弱.
ではいっそ,現場の管理者に直接言ってみるというのも一つの手.
懸念は,労働法に関する知識が足りない大人がこの世の中には多すぎるということ.最近では割とそういうニュースとかも流れるようになったので雰囲気は変わってきたが,えっ!?それって労働法違反なの!?みたいなことは,結構あるように思う.
特に管理者は年配の人が多いし,よくありがちな「昔からそうだった」みたいな認識で軽く流されてしまう可能性があると感じた.
一応大企業ということもあり最終的に判断をするのは更に上の本社の人間になると思うが,それでも私の申し出を本社に伝えるのは職場の管理者なわけで,彼らの問題意識の強さによって本社に伝わるメッセージの本気度もまた変わってくる可能性は十分にある.
この懸念を補強する事実もある.かつて先輩がこの問題を職場の管理者にそれとなく言ったことがあるのだが,「それが本社の方針だから」という主旨の発言をしたということを聞いたことがある.
この発言から考えられる可能性は2つ,管理者が独断でそう言ったか本当に本社の方針かどちらか.
前者なら本社に本気で伝えてくれないだろうし,後者なら本気で伝えてもらったところで意味がない.結局,職場の管理者を経由してこの問題をエスカレーションするという手法の有効性に対しては懐疑的にならざるを得ない.
更に,これが本社人事の方針であるというのが真実である可能性も併せて考えれば,これが法的に問題であることを理解させる必要がある可能性もあるということ.
なんか問題がより複雑になったような…….というか,これが本社の方針なら我がバイト先はブラックなのでは!?!?!?
よろしいならば裁判だ
そう考えてみると,もう有効な手法は裁判しかなくね?となるのだが,こうなるともう大変だ.
当然,裁判するための金がない.端金を手に入れるために裁判にいくら費やせばいいんだ,というレベル.
訴えれば(法的には)負けないだろうけど,それが自分の得になるかどうか,というとまた別問題.長く働くつもりなら特に.
個人的には世の中にはアルバイトなんて腐るほどあるし,裁判をふっかけてはした金を手に入れ,職場タウンにサヨナラバイバイ俺はこいつ(手に入れた端金)と旅に出る!というのもアリかと思ったのだが,現実的に裁判をする金銭的余裕はないので諦めた.裁判してみたかったなあ……
考え直したきっかけ
まー現実的にはどうもならんかな,と諦めていたのが正直なところなのだが,ある時新しくやってきた後輩が「先輩移動時間に給料出ないのおかしくないっすか」と言い出したとき,「でもそうなってるから」としか言えず,それはもはや自分も老害の仲間入りなのでは!?と気づいてしまったので,ちょっと本気を出して考えてみることにした.
浮かび上がった課題は,「職場の管理者でも,労基署でも,裁判所でもない,それ以外のルートで本社に現状とそれが違法であることを理解させるにはどうすればよいか」というもの.
しかしなかなかいい方法が思いつかず悩んでいた.人事部ではなく法務部とかそういう部署に一アルバイトが直接コンタクトを取る方法は……
ん?法務?
内部通報制度
法務という言葉から連想で思いついたのはコンプライアンス.
コンプライアンスとはなにか,というと……
英語ではcompliance、邦訳は「法令順守」です。ここ数年、企業不祥事が相次いだことから、企業が法令や社会規範などに違反しないシステムをしっかり整備し、社員や消費者、社会や株主などのステークホルダー(利害関係者)の立場に立って経営を行うことをコンプライアンスと総称するようになりました。
──「コンプライアンス」とは? - 『日本の人事部』より引用
ざっくり言うと企業としてしっかり法律を守りましょう!というある種のお題目.こんな当たり前のことが敢えて強調されなきゃいけないこの社会は大丈夫なんですかね,という気もするが.
本当は倫理的な側面なども含めたもっと深い概念なのだが,表面的な理解としては「法令遵守」で問題ない.
んでんでんで,これが今回の件にどう効いてくるかというと,近年企業はコンプライアンスを重視し,企業内での法令違反の通報を受け付ける窓口の設置が増えている.それが内部通報制度.
「コンプライアンス」を単なるお題目で終わらせない,企業内で発生する法令違反を見逃さないためのこの制度.そこそこの規模の企業ではそれ用の窓口設置されているところが多いと思う.
社内の資料を調べたところ我がバイト先にもこれが設置されていることがわかったので,通報してみることにした.
通報してみた(1回目)
通報方法はいくつかあったが,手軽にメールで送ることにした.
内容は,
「○○配属の者やで.ロッカーで着替えさせられてから実際の勤務場所までの移動時間に時給が発生してないゾ!これ違法ちゃうんか!オイ!オイ!」
……という感じ(表現は全然違うけど,内容はこんな感じで間違いない).この段階では匿名で通報した.
するとお返事がかえってきた.
「言いたいことはわかった.調査はするけど,キミ匿名でメール送ってきたから結果は教えられないぞ.結果教えてほしかったら名前教えろ.通報者の名前は調査の際には使わないし,不利益がないようになってるから安心してな.」
……というもの.
匿名だから結果は教えられないというのは確かにそうだな,と.名前が明らかでない以上私が全く無関係の人間の可能性もあり,その人に結果を教えてしまえば内部の情報が流出することになる.
是正されればその内わかる話だろうけども,何らかの理由で是正されない可能性もあるので,結果は是非聞いておきたいという思いはある.
果たして通報者の保護は実質的に作用しているのかというところも気がかりだったが,万が一名前が漏れて職場で吊るし上げられても所詮バイトだしやめればいっか!ということで名前を教えることにした.
この段階で既にこの一件をブログネタにする気マンマンだったので結果がわからないと困るというのもあるし,万が一名前が漏れて吊るし上げられたらそれはそれで「内部通報制度を使ってみたら名前が職場に漏れて吊るし上げられた」みたいな新しいネタが生まれるかもしれない!という謎のポジティブさ.こうなるともう無敵の人だ.
通報してみた(2回目)
というわけで名前を開示しておいた.
その後しばらくしてまた返信があった.内容は……
「調べたらお前の言うとおりの状況だったので来月分から移動時間も給料払うぞ.」
勝ったな.
教訓:労基法違反の通報は内部通報制度を使え!
今回得られた教訓は,バイト先の労基法違反を是正させるために(我がバイト先においては,という但し書き付きだけど)内部通報制度は有効だったということ.
内部通報制度を整え,窓口まで設置している企業は,通報を受けた以上それを調べないわけにはいかないし,労基法をしっかり読めばこちらの言い分が正当なのは明らかなので,こちらの勝利は間違いないのである.
ただ,こうした制度があるのはある程度の大企業のみ.中小零細企業ではそんなものは無いことが多いだろう.その為外部からの是正への圧力が必要になるわけだが,現状労基署がパンクしており効果的な策がない.
一方,大企業でもこうした窓口を設置するもお飾りだけで機能していないところもあるし,告発者の名前が漏れて吊し上げが発生することもないとは言い切れないのが世知辛いところ.ただ,最低限こうした窓口・通報制度がなければ話にすらならないわけで,言えることは内部通報制度のない企業ではバイトするな,かな.
大学生で言うと塾講師のバイトが給料の発生しない時間に報告書を書かなきゃいけなくて云々……みたいな話はよく聞くが,大手の塾なら内部通報制度とかあるんじゃないかな?調べてみるといいと思う.調べてそもそも内部通報制度すら無いようならやめてしまえ,そんなところは.人手不足で潰してしまえ.
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